知の探索と深化
すごく当たり前のことを言うけど、人が思いつくモノ・コトっていうのは既知と既知の結合でしかない。これをSchumpeter(1934)は「新しい結合(neue kombination/new combination)といっている。人の認知能力には限界があり、知っている概念同士しか結合できない。知らないものは結合できないし、しようがない。
例えばアイスコーヒーは、「アイス(冷たい)」という概念と「コーヒー」という概念の結合である。
もともとコーヒーは温かいものだが、「もしかしたら冷たいコーヒーも美味しんじゃね?」と思って氷を入れてみた、っていうのがそれっぽいストーリーだ。
ただそれを客観的な概念として表現すれば「アイス(冷たい)」という概念と「コーヒー」という概念の結合と言える。
世の中にあるあらゆるものは、その人の頭の中の既知同士が「新しい結合」として結びついたために生まれている。だから何か新しいものを生み出したいなら、自分の持っている既知と既知をひたすら結びつければいいということになる。
ティッシュ×電気はどうなる?
ペン×参考書はどうなる?
まだ世の中にないものを生み出したいなら、理論上は、まだ世の中にない「新しい結合」を生み出せればいいということだ。
ただし2つ疑問がある。
1つ目は、「他の人が思いつかない「新しい結合」を思いつくにはどうしたらいいか?」
2つ目は、「その「新しい結合」を価値あるものにするにはどうしたらいいか?(質をあげるにはどうしたらいいか?)」
2つの問題に答えることができるのが、exploration(探索)とexploitation(深化)の概念だ(March, 1991)。
他の人が思いつかないような「新しい結合」を思いつくには、
・他の人よりも「既知」を増やすこと
・さらにいうと他の人が思いつかないような分野の「既知」を増やすこと
が有効である。
exploration(探索)とは知の探索活動を意味する。誤解を恐れずに言うと、「あらゆる分野の情報を興味の赴くまま収集しようよ」である。つまり浅く広く、情報収集すると言う概念である。
そして価値ある「新しい結合」のためには、exploitation(深化)が有効である。これはexploration(探索)とは逆で、「ある特定の物事を狭く深く勉強しようよ」という概念である。
だからまとめていうと、すごくなんでも知っている人だったら理論上は他の人よりも「新しい結合」を起こす確率は高くなるよね、でも浅く知っているだけならそれってあまり価値ないからそのことについての専門家入ればもっといいよね。ってことになる。
(ただこれはかなーり簡略化した話であり、かつ川上のみの話である。実際にSchumpeter(1934)やDyer, Gregersen and Christensen(2008)、武石, 軽部, 青島(2012)が言うように、アイデアは実行に移され普及することで価値を持つので、川下の議論がないと「価値」にいては言及するべきではないが・・・)
主張としては、新しいものを生み出したいと漠然と考えている人や組織は、何か情報収集する時には「広さ」と「深さ」を意識して両立させるべきと言うことだ。
余談になるが、組織においてはexploration(探索)とexploitation(深化)は対極的な学習活動であるため両立が難しいとされている(March, 1991:Levinthal and March, 1993)。
いくつか実証はされているが、興味深いのが「exploration(探索)を集中的に行なっていても短期的な利益に直結しないから」と言うものがある。広く情報収集していても、イノベーションというものは基本的に不確実なものであるため、目的のない情報収集は組織内で嫌われる。であるなら基本的に組織はexploitation(深化)を走りがちになる。そちらの方が短期的利益に直結するし、他のメンバーからもとやかく言われることはない。
このことをCompetency Trapと呼ぶ。
長期で見れば役にたつ(かもしれない)。だけどイノベーションは不確実だからイノベーションである。exploration(探索)を推奨・許容するような組織に、sumireをしていきたい。
参考:
Dyer, J. H., Gregersen, H. B., & Christensen, C. (2008). Entrepreneur behaviors, opportunity recognition, and the origins of innovative ventures. Strategic Entrepreneurship Journal, 2(4), 317-338.
Joseph A. Schumpeter(1934)"The Theory of Economic Development: An Inquiry Into Profits, Capital, Credit, Interest, and the Business Cycle", New Brunswick (U.S.A) and London (U.K.): Transaction Publishers.
Levinthal, Daniel and James March (1993) “The Myopia of Learning,” Strategic Management Journal, Vol.14, 95-112.
March, James G. (1991) “Exploration and Exploitation in Organizational Learning,” Organization Science, Vol.2, No.1, February 1991, pp.71-87.